第3話 夢みたいだけど夢じゃなかった

 

 

 

 目が醒めると、そこは全然しらない部屋の中で、しかも、大きな猫の顔が三つも、心配そうに俺の顔を覗きこんでいるところだった。

 ゆ、夢じゃなかったんだ。夢だったら、どんなにいいだろうと思っていたのに。

どうやら俺は昨日の猫型宇宙人?の家に連れてきて貰ってベッドを貸してもらっていたらしい。気持ちのいい、すべすべした毛布にしっかり包まっていた。

 合計六つもの大きな瞳に見つめられて、どうしていいか分からないながらも、俺は身体を起そうとした。三人(いや、三猫というべきか?)とも、基本的にキジ虎模様のきれいな毛皮をしていた。きちんとお風呂にも入って、ブラシを掛けられて、ツヤツヤしている時のウチの保護猫たちより、ずっときれいな身体をしていて、おもわず触って確かめたくなってしまったけれど、そこはぐっとガマンした。

 それを、その中で一番大きな身体をした猫型宇宙人に止められて、そのまま寝ているように指示される。そうして、一番身体の小さな猫型宇宙人に、そっと目配せをすると、目を輝かせて頷いたその身体の小さな猫型宇宙人は、転がるようにして部屋から出て行った。

「ニンゲン≠ウんが起きたよ〜。ゴハン出してあげてぇ〜」

 階段を降りるドタドタという足音と共に、大きな声が聞こえてきた。そっか、猫型宇宙人は猫と違って足音がするんだ。

 そこでハッとした。ゴハンて、猫型宇宙人が食べているゴハンって、死んだネズミとかだったらどうしよう?!

 血が一気に下がっていくのを感じた。

 ここまで良くしてもらっておいてなんだけど、しかも選り好みできる立場なんかじゃないっていうのも充分分かっているけど、それでも、生のネズミなんか出されたりしたら、悲鳴を上げないでいられるかどうか、自信が無かった。食べられないなんて失礼な事をいったりして、怒らせたらどうなっちゃうんだろう。どうしよう。今すぐ走って逃げだそうか。でも、俺なんかが走って逃げても、この大きな猫型宇宙人が追いかけてきたら、絶対にあっと言う間に捕まっちゃうに決まっている。

またもや、絶体絶命のピンチ。

マンガではよく見かけるけど、今まで流したことなんかない、冷たーい嫌―な汗≠ニいうものを、生まれて初めて自分が流しているのがわかった。こんなこと、知りたくなんか無かったよー。

そんな失礼なことを考えているってことが、ばれちゃうのも恐くって、ガタガタと勝手に震えだす身体を一生懸命に押さえて毛布に包まって、目をつむった。本当に、夢なら今すぐ覚めて欲しい!

「おまちどうさま。目が覚めてよかったわね。」

 ドアが開いた途端に広がった美味しそうな匂いに、咽喉とお腹が大きな音をたてた。うわっ。恥ずかしい。俺は自分の顔がみるみる赤くなっていくのがわかった。さっきまで食べられるようなものが出てこないんじゃないかとか、失礼なことばっかり考えていたのに。

「どうぞ。でも、久し振りの食事みたいだから、ゆっくり食べるのよ?」

 デッカイ目を線になるほど細めてニコニコしながら、スープの入ったお皿を差し出してくれた。多分、この家のお母さんなんだろう。声が女の人っぽいし、エプロンをつけているので、そう思った。この家では彼女の毛皮だけが真っ白だったが、瞳の色は皆と同じ、でもこの中でイチバン明るい、綺麗な金色の虹彩をしていた。

 その、優しげな空気に安心して、でもまだちょっとはドキドキしながら、おいしそうな匂いに誘われて、受け取ったスプーンを口に運んだ。

「美味しい!」

いままで食べたことない味で、しょっぱくないんだけど、まろやかで、ちょっとトロミがついていて、とにかくなんか、ものすごーーく! 美味しかった。

「そう。口に合うみたいでよかったわ。いっぱいあるから、お替りもしてね」

 彼女は、俺の素直な感想にとても嬉しそうにして、お替りを勧めてくれた。

 俺は無我夢中でスプーンを口に運び、遠慮なしに何杯もお替りをし続けた。

 スープだけじゃなくて、バスケットに盛られた、ふわふわもちもちした焼き立てのバター付きパンも何個もご馳走になり、さらに、甘いハチミツ入りのミルクもご馳走になったところで、俺はお替りを要求するのをやめて、一息ついた。ふう。さすがにお腹が苦しいや。なんていうかむしろちょっと、よくばりすぎちゃったかも。

 初対面の、しかも、猫型宇宙人?の家に上がりこんで(でもこれは不可抗力っていうか、連れこまれたっていうかだけど)そのままベッドを占領して眠り込んだ上に、勧められるまま、飲み食いしまくりって、いくらなんでも、俺ってば、無遠慮すぎだったんじゃないだろうか。

 ちょっと……。いや、大いに反省するべき、だよな。

 とりあえず、食べ散らかしたこのお皿の山たちを片付けるのを手伝うべきかな。

 そう思って、ベッドから立ち上がろうとしたところに声を掛けられた。

「ね〜ね〜。ニンゲン≠ウんの名前は、なんていうの?」

 ゴハンを運んでくれるように、母親らしき猫型宇宙人を呼びに行ってくれた、キジ虎模様の猫型宇宙人が、色素の薄いブルーグレーの虹彩を、キラキラと輝かせながら話し掛けてきた。他の家族猫人がみんな綺麗な金色の虹彩をしているということは、彼はまだきっと子供なんだな、と、そう思った。もう少ししたら、きっと皆と同じ金色に変わっていくのだろう。俺の知っているフツーの猫と、そういうところは違わないみたいだった。

そんなことよりなにより、泊めてもらった上に、美味しいゴハンをご馳走にまでなっていて、名乗りもしないでいたなんて、子供じゃあるまいし。来年には中学生になるという俺としたことが、なんてことだ。

 ベッドの上に、きちんと正座しなおして、頭を下げた。

「俺は太牙=Bタイガって呼んでくれ」

 ちょっと強そうなカッコいいこの名前を、俺は結構気に入っていた。保護した猫の仮りの名に、にゃん太≠ニかミャーコ≠ニかつけている父さんのセンスでも母さんのセンスでももちろんなくて、母方の、格闘技好きな祖父のセンスによるものだ。

 自慢げに自分の名前を披露したものの、周りで聞いていた猫型宇宙人家族?達にはぴんとこないようで、『どんな意味なの?』なんて聞いてきた。ちぇっ。日本語をしゃべってはいるけど、通じ切ってはいないって感じだ。

「タイガって、タイガーだよ。虎って言えばわかる? そこに漢字を当てたんだ。カッコいいだろう?」

 『強い漢になれ!』という祖父の思いにより、付けられたんだそうだと付け加える。すると、名前を聞いてきたキジ虎模様の猫型宇宙人の隣にいた、俺をこの家に連れてきてくれた白手袋白足袋キジ虎模様の猫型宇宙人(えぇい、まどろっこしい。この後は猫人っていうことにする。彼らは自分たちのことを『ネコ』だと名乗っていたけれど、俺の知ってる猫とは全然違うし、区別する必要があると思う)が嬉しそうに叫んだ。

「トラ? それじゃあ、僕と同じ名前なんだね〜。僕の名前はとら吉≠チて言うんだ〜」

「あのね、あのね。ボクの名前は、たつ吉≠ネの。それでぇ、おとーさんがレオクン≠ナ、おかーさんがハナチャン≠チていうの。おにいちゃんとボクで竜虎なんだよ〜」

 竜虎。それだけ聞くとやっぱりすっごい強そうなのに。でも名前は、とら吉≠ノ、たつ吉≠ナすか。そうですか。

 なんだか、俺の父さん達が付けそうな名前だなぁと、そっと思ってため息が出た。

 その、ため息の意味を違うように受け取ったのか、一番身体が大きくて、金色の瞳が強く光って見える、(多分)父親猫人が、慎重に声を掛けてきた。

「タイガ君は、もしかして、こちらに間違って落ちてきてしまったニンゲンなのかな?」

 間違って落ちてくる? どういう意味だろう。言葉の意味すら判らないので返事のしようがない。どう返事をしたらいいんだろうと途方にくれていると、父親猫人のレオクンさんが、やっぱりそうかといった様子で母親猫人のハナチャンさんと頷き合い、説明をしてくれた。

 

 どうやら、というか、やっぱり、というか、ここは猫猫ファンタジー内のアトラクションなんかでは勿論なくて、俺の住んでいた街じゃないどころか、なんと日本ですらないらしい。

それじゃあなんていう土地なのかといえば、『大きな栗の木と河のある村』。それは本当に地名なのかとちょっと不安になるような名前なんだけど、何度確認してみても、そう繰り返されるだけなので、それが正式名称で間違いないらしい。この村から太陽が昇る方角にあるのっぽな山の麓にあるのが、『のっぽな山の麓の河口にある小さな村』で、山の麓の河口にある村の手前に、この国の中心である、『きれいな河と湖のある大きな町』があるそうだ。

ちなみに、『きれいな河と湖のある大きな町』にはお城があって、そこにはこの三つの村を治めている、王様が住んでいるらしい。

「あのね、王様ってね、すっごく大きくて、頭が良くて、強くて、すべすべの長ーい綺麗な毛皮しててね、カッコいいんだよ〜」

「きれいな宝石がいっぱい付いた、金色の王冠被っててね、赤い裏打ちのついた、ながーいカッコいいマントも羽織ってるの〜」

とら吉とたつ吉が、自慢げに言った。いいなー。日本には王様っていないし、そんな自慢できる王様がいるなんて、ちょっとうらやましいかも。そんなスゴい王様なら一度くらい会ってみたいな。

そういえば、なぜだか俺と彼らはそのまま言葉は通じてるけれど、それは実はレオクンさん達が話しているのも日本語だからという訳じゃないんだそうだ。ときたま真っ黒い肌のニンゲンとか金色の髪のニンゲンが落ちてくる時もあるけど、落ちてきたニンゲンは誰でも、猫人とは話すことは出来る、らしい。

そうして、レオクンさんは、ちょっとイタズラっぽく瞳を輝かせると、とら吉に向かってなにか指示を出した。ハーイ、と大きな返事をして、部屋を出て行くとら吉の後を追って、たつ吉も廊下へと出て行く。が、すぐにとら吉は戻ってきたので、ドアのところで、追っていこうとしたたつ吉と、ぶつかってしまったらしい。

「いたいよ、おにいちゃ〜ん」

「いたいよ、たつ吉〜」

二人が揃って涙目になりながら、お互いを批難していた。

うん、学校の廊下に張ってある、

『外開きのドアを開けるときは、ドアの外にヒトがいるかもしれないと注意して、ゆっくり開けましょう』

という標語は間違いじゃないのだ。気をつけようね。

クスクス笑いながら、ハナチャンさんが二人の頭を撫でて、二人ともお互いにちゃんと気をつけないで廊下に出てごめんなさいってしなさいね、と優しく注意してから、床にばら撒かれた紙とペンと拾い上げていた。

「はい。タイガ君に、見せてあげるんでしょ?」

 そういわれたとら吉は、ぶつけた額の辺りに手を当てながらも、ニカっと笑ったように見えた。

何を見せてくれるんだろう?そう不思議に思っていると、いつの間にかすっかり片付けられてしまっていたテーブルの上(失敗した!)に、とら吉が紙を広げて、肉球模様みたいのを描き出した。

よく、固まりかけたコンクリートの上に、猫の足跡が残っていることがあるだろう?あれの1個1個をもっと近くに書いてあるみたいな感じ。便箋みたいに縦書きで罫線が入ってるんだけど、そこに、ヨタヨタと肉球模様が描かれている。右に左に真ん中に、大きいのとか小さいのとか、肉球の前半分とか右半分とかが、まっすぐな線で区切られている行の中を、うねうねヨタヨタしてるみたいに見えるんだけど……なんでだか、それが俺には

『僕の名前は、とら吉です。=x

と、書いてあるのだと、すぐにわかってしまったのだった。絵じゃなくて、字、だったんだと思ってがく然とした。

どうみても肉球スタンプがぺたぺたと押してあるだけにしかみえないんだけど、なんでなんだろう。ちゃんと意味が分かるのが、恐いような感じがした。

ちなみに、猫人達の文章は、下から上に向かって、書くし、読むんだ。上から下に読むのに慣れているハズなのに、なぜか猫人の書いた文章を読もうとすると、目が下から上へと動いちゃうのが、とにかくとっても不思議な感じだ。

ちなみに、どうみても違う文字にしか見えないのに、俺達落ちてきたニンゲンの書いたものは彼ら猫人達にもフツーに読めるというので、俺も、先ほどのペンを借りて、ちょっと文字を書いてみることにした。名前はさっき言っちゃったから、なんか違うのがいいな。ちょっと考えてから、願いを込めて書いてみた。

「夢ならさめて≠ゥ。そうだな。タイガ君にとっては、こんな事、悪夢以外の何物でもないよな」

 レオクンさんが、フカフカの肉球で頭を撫でてくれながらそう言った。

 本当だ。レオクンさんには、日本語が読めるんだ。

こんな風に、猫人の書いたものは、落ちてきたニンゲンにフツーに読めるし、落ちてきたニンゲンの書いたものも猫人には読めるけど、前回この村に落ちてきたニンゲンには、その前に落ちてきたニンゲンの書いたものを読むことができなかったんだって。

『英語じゃない。読めない』

前に落ちてきたニンゲンの書いた物が読めないと、ガッカリしながら言ってたんだそうだ。だから、落ちてきたニンゲン同士の場合は、元の世界にいた時にしゃべっていた言葉が違ったら、文字での意思の疎通はできないんじゃないかということだった。

ついでに言えば、ニンゲンが落ちてくること自体、滅多にあることではないので、同じ村に落ちてきたニンゲンが二人いる、という状況になったこともないそうだ。だから、同じ文字を書ける人間同士にしろ、違う文字を書いているニンゲン同士でにしろ、同じ時にニンゲンが落ちてきて話しをした、ということは聞いた事がないので、落ちてきたニンゲン同士が直接話しができるのかは分からない、ということだった。

だから、多分でしかないけれど、自動通訳と自動翻訳は、猫人と落ちてきたニンゲンの間でのみ起こるらしい、と、レオクンさんはそう言った。

そして、イチバン俺が知りたかった事。

これまで落ちてきたニンゲン達は、今はどうなっているのかというと……いままでこの村に落ちてきたニンゲンはレオクンさんが知っているだけでも三人いたんだけれど、みんなして、ある日突然、いなくなってしまうんだそうだ。もしかしたら帰れたのかもしれない。多分帰れたんだろうとレオクンさん達は今でも思っているけれど、でも、それがどうやってなのかは、全然分からないそうだ。

いなくなった時期もまちまちで、イチバン早い人は一週間とこの村にいなかったそうだし、あとは三ヶ月くらいの間この村にいた人と、一年近くこの村に一緒にいた人がいたけれど、全員が、ある朝突然、いなくなってしまったんだそうだ。隣の村とかに落ちてきたニンゲンの話でも、やっぱりいつの間にかいなくなっていて、やっぱりなんの共通点みたいのも思いつかなかったみたいだ。実際のところ、本当に元の世界に帰れたのか、それともこの村が嫌になって出て行ってしまっただけなのかどうかも全然分からないんだそうだ。

ちなみに、この世界にもニンゲンは住んでいて、時おり山ほど荷車に荷物を積んで行商にやってくることがあるけれど、どこに住んでいるのかは詳しくは村の誰も知らない、ということらしかった。

どうして誰も知らないのかといえば、興味がないから、ということらしい。自分の住んでいる場所から遠く離れているところになんか興味がある方がおかしいし、猫人達は旅になんかも行かないそうだ。自分の村どころか国からすら離れるなんて馬鹿なことは有り得ない、何の為に行くんだと、不思議そうに言われてしまった。

そういえば、俺達の世界での猫もそうだもんな。自由気ままでどこにでも行っちゃいそうなイメージがあるけど、実際には猫のテリトリーなんて、ほんの路地一区画分くらいでしかないもンなんだって、母さんから聞いた事がある。

それと、ニンゲン達はとても無口で、話し掛けてもほとんど返事もしないそうだ。商売をする時も、『これいくら?』と聞けば答えるけど、『これ負けてくれない?』と話し掛けても首を振ったりするだけで、余計な言葉は一切いわないそうだ。

万が一会えたとしても、そんな愛想の悪いニンゲンが相手じゃ、元の世界に戻る方法を教えて欲しいと頼んでたとえ彼らが知っていても、面倒臭いと首を横に振られてオシマイにされちゃいそうな気がする。

 俺は、くらくらする頭を抱えて、ベッドにつっぷしてしまった。

 どうしよう。

 本当に、どうしたらいいんだろう。どうすれば家に帰れるんだろうか?

 せめて、夏休みの間の内に帰ることができればいいんだけれど。でも、もし新学期が始まっても帰れなかったら? そしたら、落第とかなっちゃって、卒業できなくなって、クラスの中で、俺だけ中学生になれない、なんて事になっちゃったりしたら?

ううん。もしかしたら、大人になっても帰れないかもしれない。一生ここで過ごすことになっちゃうかもしれないんだ。

 そう思うと、怖くて、涙が勝手に溢れ出てきて、みんなの視線が集まっているのは分かっていたけど、どうしようもなかった。

 ぽろぽろと涙を流し続ける俺にどんな声を掛ければいいのか、みんなが困っている空気が漂う。ごめんなさい。でも、できれば、今だけは放っておいて欲しいです。

 そう思って、俺はことさら強く毛布を握り締め、泣くことに集中した。

 そんな俺の気配を察してくれたのか、ハナチャンさんが、そっとレオクンさんや子供達に声を掛けて、部屋の外に出るように促してくれた。

 一人になりたい。

 自分の家じゃないってことは、ちゃんとわかってるけど。わがままだってこともわかってるけど。それでも、どうしても、今は一人になって、思いっきり泣きたかった。だから、早く出て行って欲しいと、それだけを思いつつ、ひと際大きな声を上げて泣き出してみた。なんだか自分がすっごい嫌なヤツになった気がする。それでも、どうしても、だったから。

 パタン、と小さな音を立てて、木でできた扉がしまった。

これで、ひとり、だ。

そう思って、今度こそ、ワザとじゃなくて、泣きたいように泣けるとそう思った時だった。

 

ドアの向こうから、とら吉の大きな声がした。

「そーだ! ねーねー、おとうさん。れでぃ・クーン≠ネらどうすればタイガが帰れるか、知ってるんじゃないかな〜?」

 レディ・クーン=H その人なら俺を元の世界に戻してくれるんだろうか?

 慌ててベッドから飛び起きて、ドアの向こうに転ぶように出た。

 バン! ドン! ガン!

 本当に、学校の廊下に張ってある標語は正しかったんだな、と、思った。

『外開きのドアを開けるときは、ドアの外にヒトがいるかもしれないと注意して、ゆっくり開けましょう』

いくら反省して謝っても、とら吉の頭につくってしまった大きなタンコブは、もとには戻らない。

 バン!と勢いよく開け放ったドアは、ドン!と思いっ切りとら吉のお尻にぶつかり、ガン!と大きな音がするほど強くとら吉の頭を廊下の壁にぶつけることになったのだった。

 たつ吉とぶつかった時と、おんなじ様なところをぶつけてしまったようだ。ツヤツヤとした毛皮を、赤紫色に腫れ上がったタンコブが押し上げているのが、見てるだけでわかる。うう、痛そう。本当のホント〜に、ごめんなさい!

 

「大丈夫だよ。そんなに気にしないでいいんだよ〜?」

 タンコブのできた頭を擦りながら、とら吉は笑ってくれた。よく見ると、左目の周りもうっすらと紫色になっていた。

 いい奴だな、お前!

 俺だったら、ゴハン食べさせてやって、ベッドまで貸してやったのに、って、きっとめちゃくちゃ怒っているところだろう。そう思うと、いろいろとよく分からない状況に陥ってしまってはいるけれど、ツイてないばかりでもないような気がしてきた。だって、こんな常用ではあるけれど、とにかく暖かく迎え入れてくれる場所があるなんて、ツイてるといえなくもないんじゃないかな。

 そう思ったらちょっと気が楽になった。

 

 

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