「らぶ♡げっちゅー」

 

 

この春に高校を卒業した。

制服を着てた頃は真ん中をどうどうと歩いていたハズの同じ街の同じ道。制服を脱いだってこと以外なにも変わったことなんかないのに、あたしは何故だか妙にミジメで恥ずかしくなっちゃって、今までみたいに真ん中を歩いたりできなくなっていた。

 

就職したっていっても近所のスーパーのレジ打ちと商品棚の補充係で、コンビニのバイトとやる事はあんまり変わんない。それは楽チンでいいんだけど、休みが平日でしかも出勤時間は毎日のように変わっちゃうから高校の時の友達と遊びにくくなったし、同期で入った他の子達は地味子ばっかりで話も合いやしない。当然惚れちゃうようなカッコいい上司がいるわけでもなくて、いるのは顔を見ただけでげぇって気分になる口うるさいパートのオバサンばっかりだ。

化粧が濃いだの、髪の色が明るすぎるだの、お前はあたしのカーチャンかっつーの。バカらしくて聞いてらんねーんだよ!

 代わり映えのない退屈な毎日。でもある日あたしは素晴らしく楽しげな気晴らしを思いついた。もうすぐ夏休みだし上手くいくはず。

「ぜったい楽しい夏になる!」

呪文のように繰り返して、あたしは世間が夏休みに入ってから最初にくる休日を指折り数えて待ちわびた。

 

地元で決行する気はない。知ってる人に会ったら興ざめもいいとこだもん。だから大きめのバッグに全部詰め込んで電車を乗り継いで、何度か遊びに行ったことがある都内某所の駅のトイレで着替えることにした。家から着てきた服はお約束だけどコインロッカーに放り込む。あたしの計画はカンペキだ。

大きく胸元が開いた紺地のセーラーカラーとリボンタイと同系色なチェックのプリーツスカート(膝上二十センチに調節済)。

これが着たくて受験校を決定したくらいに超お気にな制服は、当然だけど今でもあたしにめちゃくちゃ似合ってた。右肩に下げているのは超可愛いピンクベースで集めたストラップをたっくさんつけたミッシェルクランのスクールバッグ。紺地のセーラーとバッグにピンクってヤバいほど可愛いと思う。

ショーウインドウに映りこんだあたしはどこから見ても女子高生だ。

「やっぱコレよね」

ようやく本当の自分に戻れた気がして、晴れやかな気持ちであたしは人ごみの中へと歩き出した。

 

「カーノジョ♪ 友達と一緒じゃないの?」

 5人目までシカトして、ようやくそれなりのイケメン君に声を掛けられたあたしは笑顔で答えた。

「今日はね。そっちもひとり?」

「うん、そう」

 そう返事をしたと思ったらそのまま肩に腕を回してきて、私が持っていたバッグを持ってくれた。超ナンパ慣れしてるって感じ。

すれ違っていく女の子たちが私たちを見てるのがわかる。ふふん、やっぱり誰が見てもイケてるってことだよね。いいかも。

「ひとり同士、遊びに行こう?」

 周囲の視線に気を良くしたあたしはオッケーしてあげることにした。

 

「プリクラ撮りたい!」

 最近ぜんぜん撮ってないから、いい加減にケータイの待ち受け画面に飽きてきていたのだ。だから今日は絶対に撮りたかった。いーっぱいキラキラしてて、めっちゃカワイイやつをたくさんゲットしておきたかった。しばらく日替わりで楽しめるくらい欲しいところだ。それがこんなイケメンと2ショットなら最高じゃん? 次に友達にあったとき自慢できちゃう。

 私が指差したプリクラ機の前で立ち止まったイケメン君が笑顔で頷いてくれた。

「いいよ」

 OKしてくれたのはいいけれど、店の前にもプリクラ機はあるのに、彼は私の肩を抱いたままどんどん奥へと進んでいく。

「三階にプリクラ専用フロアあるんだ」

「そうなんだ、この辺のこと詳しいんだね」

 たくさん撮りたいあたしとしてはめっちゃ嬉しい。専用フロアの方がいろいろ選べて楽しいもんね。

乗り込んだエレベーターは狭くてちょっと汚かったけど、カズ君という名前を教えて貰ったばかりのイケメン君とこんな狭い空間に2人きりっていうのはなかなか高ポイント。彼の指が朝懸命に巻いた私の髪を玩ぶ仕草も、すぐ横にあるあたしを見つめるその視線もエロっちくて心臓が超ドキドキした。

 

「あれにしよう」

 カズ君がフロアの奥にあるちょっと大きめの一台を指差していった。ううっ。あれってちょっと旧式っぽくないかい?とか思ったけれど、それでもまだ撮ったことない機種だったのでとりあえずOKした。他のも撮ればいいだけだしね。

 プリクラ機が立ち並ぶ森みたいな空間を縫うように二人で歩いていく。

 目指した先にあるのはやたらデカい一台だった。なにこれ。プリクラ機作ってるオジサン達には、ぜひ本体も可愛く作らなくちゃだめっていうことが判ってないのかしら。長くてもっさいカーテンが全体を覆ってて、超地味! 超最悪!!

 げんなりとしたあたしの表情に気付かないカズ君が、妙にうきうきとした態度でその長くて分厚いカーテンを開けてくれた。

「入って入って」

 別に彼の私室でもないのに超ウケる。あたしは笑いながら、イケメン・カズ君があたしのために開けてくれたカーテンの中に入ることにした。

「どの画面にするー?」

 キラキラ宇宙、ひらひらお花畑、イルカが泳いでる神秘的な海の底。

思ったよりイイ感じの画面が並んでいる。うわっ超迷う。

本当はキラキラ宇宙がいいな、と思ったんだけど、男の子ウケするのはやっぱりお花畑かしら?

「これにしよ!」

 あたしが幸せなかわいい悩みに迷っているうちに、サッと、私の中で『これだけはない!』って思ってた、超ツマンナイ海辺の背景を、カズ君の野郎が勝手に選択しやがった! 瞬間、殺意が沸いた。でもまぁこれってカズ君のリクエスト機種なんだしね。今回だけは我慢してあげよう。あたしって心の広いイイ女よね。社会人の余裕ってヤツ?

 プリクラ画面の指示に従って画面の調整をして、あたしはあたしがイチバン綺麗に写る、上目遣いの右35度に顔を合わせた。

真っ暗な画面に映り込んだあたしってば、やっぱかなりイケてるわ。

「じゃあ撮るよ?」

 彼がスイッチを押したその瞬間、ぐいっとばかりにセーラーの裾を持ち上げられた。

おへその穴もお気に入りのピンクのブラも丸出しなのに、肝心なあたしの顔が入ってないプリクラ画像が撮影される。

「あにすんのよっ!」

 叫ぼうとした唇をキスで強引に塞がれた。

あん、巧いーん。

すかさずスカートの中に手が忍び込んでくる。なるほどね。だからフロアの隅のこの機種だったんだ。カズ君たらあたしのことがこんなに欲しかっただなんて。まったく、カワイイところがあるじゃないの。

スカートの中はもちろんブラとオロソのピンクのタンガだ。後ろのところに小さなリボンが付いてて、そのすぐ下にはちょこっとエロ気を演出できる穴あきのヤツ。穴あきっていっても真ん中にじゃないのがあたし的にポイントが高い超お気に入りの一枚だ。

あたしの丸くてちいさなカワイイおしりを優しく包むカワイイ布切れ。その布を汗ばんだ大きな手がズラしてく。

自分がちょっと安く扱われてるような気もしたけれど、でもカズ君の舌が気持ち良過ぎて、抗議の声を上げる気にもなんない。

丸出しになっていたブラの上からあたしの小振りだけれど形がいいと評判の乳がリズミカルにぐにぐにと自由に形を変えられて玩ばれた。

分厚いカーテンの外にある人の気配と口の中を激しく動き回るカズ君の超絶舌技に、うっとりしかけたところでニヤけた声が耳に届いた。

「大きな声出すと、いっぱい人がきちゃうよ? 俺みたいに、さ」

 いつの間にかもう一人いる?! ……って、あたしの大事なタンガに手ぇ突っ込んでるの、カズ君じゃないじゃん!

つか良く考えたら乳揉んでる手と肩に回された手と腰を押さえつけてる手と合わせたら、全然ひとりじゃないのはあたりまえじゃん、あたし!

ものすごくビックリしたあたしは折角の気持ちいいキスから顔を背けるように声のした方向に首を動かした。

「うわー、ブッ細工」

 思わず、正直な感想が口から漏れた。

「こんなことしなくちゃ女に触れないってか? 超キメェ」

 そう鼻で哂ってやった時、あたしにはあたしの顔に向かってブサ男の汗臭そうな拳が振り下ろされてくるのが見えた。

「うるせぇ、ブスは黙ってヤられてろ!」

 失礼なことをぬかすブサ男だ。あたしくらいカワイイ女の子はそうはいないんだからね!

すかさずカズ君の襟元を掴んでしゃがみこみ、ブサ男渾身のグーパンチをカズ君の綺麗なお顔を盾にして間一髪でかわした。

「女の子に向かってなにすんのよ!」と、ちょうど目の高さにあったブサ男の○○(乙女の口からは絶対に言えない)に怒りのグーパンチをお見舞いする。うわっ。勢いで汚っちゃないの触っちゃった!

慌てて、近くにあったカズ君のそこへもグーパンチを入れた。消毒代わりってヤツ。あん、カズ君のに触っちゃったぁー(はぁと)

 それにしても、イケメンもブサ男も、ここを攻撃された時にでる悲鳴は同じでつまんないもんねぇ。なんていうの? 独創性が足りないって感じ?

「テメェ、……ゆるさねぇかんな!」

股間を押さえた中腰で凄まれても全然怖くないし、どっちかというとみっともないんですけど〜?

 すっかり白けたあたしは、レイプ未遂犯どもを残してエレベーターに向かって歩き出した。

 その時だった。

「これが学生証かなぁ?」

 預けたままのバッグのことをすっかり忘れていたあたしは焦った。学生証なんて持ってない。間違えられるとしたらそれは……。

「これ……、西YOUの社員証じゃねーか! 婆とキスしちまった! ウエェッ」

「婆じゃないもん!」

 なんて失礼な! あたしはまだ十代だ!

「中学生の俺らからしたら充分婆じゃん」

 なんてことだ。よりによって中坊のキスに酔ってしまっていたなんて! でも夏休みだもんね、中学生もいるか。

「……返しなさいよ、中坊」

 仁王立ちになりながらガンくれてやった。

 その時だった。ブサ男がイケメンの手の中からあたしのバッグを奪い取ってビルの窓から投げ捨てたのだ。

「あーっ!」

 窓の外に身を乗り出したけれど手が届くわけもなくて、視界の先で、バッグはゆっくりと回転しつつ雑踏の中に落ちていった。

「ばーかバーカ! ヘンタイ婆!」

 糞中坊どもが安っぽい捨て台詞を叫びながら逃げ出していった。マジ最悪、死ね! 一生懸命集めたあたしのストラップ達になんてことすんのよ。

あ、でもイケメンが拾ってくれて、そこから運命の恋が始じまっちゃったりして?

それいいかも♪

ウキウキしながら床に落ちていた社員証を拾い上げ、ちょっと考えて、乳丸出しだけど折角のイケメン(中坊だなんていわなきゃわかんないし)との2ショットだしと思い直して、さっき撮ったプリクラも記念にゲットすることにした。捨てんのはいつでもできるしね。撮影しただけで印刷操作してなかったそれの続きをちょこちょこっと操作して、あたしはデータをケータイに落とし、プリクラシールもゲットした。これでOKかな。

新しい素敵な出会いに備えて髪とスカートのみだれを直しながらエレベーターに乗りこみ颯爽と地上へと降り立った。けれど、残念なことにカバンは地味に道路に落ちたままになっていた。ちっ、そんなに上手くはいかないか。あたしはため息とともにカバンについた足跡を手ではたいて落とし、とりあえず中身を確かめることにした。

 

……ない、ない、どこにも入ってない!

持っている物全部を道端にぶち撒けて探したけれどやっぱりなかった。

あたしは落ちていそうな所を這いつくばって探した。すれ違う人がクスクス笑うのが聞こえたけど、そんなの気にしていられない。

アレだけはないと困るのにぃ!

「そんな所でなにしているんだい?」

「ナンパならお断り。いま取り込み中!」

 ほっといてよ。ダサいオッサンに用はないの。

「ナンパじゃないよ、これは職務質問だからちゃんと答えて」

 ……ショクムシツモン?

「ケーサツ?!」

「そう。だからなにしているのかきちんと答えて。高校生だよね、それはどこの高校の制服かな?」

 全身が震えた。別に罪を犯しているわけじゃないけど、でも、自分の血の気がスーッと下がっていくのが判った。

 コインロッカーの鍵をなくしたなんて絶対に言えない。だってその中に入ってるもののことなんて言えないし、本名はともかく、実年齢のことなんて絶対の絶対に言えない。

 

どうしよう! たすけて、神様!!

  

 

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某投稿サイトの夏の競作祭り参加作の原型に近いバージョンです。

テーマは「夏」でした。

ページ規定の関係で内容を削りまくったら説明不足になってしまったようで情けない結果に(^^;

ずっといじけた性格のヒロインばかり書いていたので

たまには弾けまくったおバカな女の子(しかも強い)を書いてみたくなりました。

なんだかものすごく書いてて楽しかったですw

また書いちゃうかも。